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エビちゃん日記
- 食・農業・環境
吉田太郎さんの新著
『シン・オーガニック
-土壌・微生物・タネのつながりをとりもどす 』。
発行は農山漁村文化協会(農文協)から。
吉田さんは大学や研究機関で働いた
農学の専門家ではない。
筑波大学で地質学を専攻し、
同大学院で環境科学を学び、
有機農業と出会った。
埼玉県小川町で有機農業を実践した
カリスマかつレジェンドとも言える
故・金子美登氏の霜里農場で学び、
激しく影響を受ける。
大学院を中退し、埼玉県職員(農業土木)、
長野県農業大学校教授や
同県有機農業推進担当の職を経て、
定年退官後もひたすら有機農業の研究を
続けてきた、今はフリーのジャーナリスト
である(あとがき及び略歴から)。
その間、キューバの有機農業を紹介した
第一人者としても知られる。
本書は、そんな吉田さんが
これまで溜め込んできた知識に
新しい知見を加え、かつ自らの
“ 熱 ” を注ぎ込んで完成させた、
現時点での集大成ともいえる
労作である。
本書を送ってくれた編集者、
田口均さんからの手紙には、
こう書かれてあった。
ウクライナ危機を契機に、
世界の食料需給の逼迫が懸念されています。
その一方で、カーボンゼロや
生物多様性の保全が求められています。
世界飢餓も防ぎながら気候沸騰を回避する、
二つの難題を同時に解決しなくてはならない
- これが、食と農をめぐる今日的な状況です。こうした前提には
世界的にコンセンサスが得られています。
しかしその現実の手法となると百花繚乱、
いや混沌としているのが現実です。
AIやドローンや人工肉、細胞培養等
の先端技術を用いたフードテックが
あると同時に、有機農業や自然農法、
リジェネラティブ農業などがあります。そうした状況を前に、本書は、
有機農業や自然農法にかかわる
“ そもそも ” の問いに
答えることを目指しています。なぜ化学肥料や農薬を使わなくとも
作物は育つのか?
なぜ耕さなくてもよいのか?
なぜ多様な植物が必要なのか?不思議なもので、
こうした問いについて
総合的かつ科学的に論じている
書は見当たりません。
本書はこれらの問いに、
最先端の科学的知見と
篤農家の叡智にもとづき
真正面から答えるものです。
長い引用になったが、まさに
“ そもそも ” の問いへの回答を
提示すべく挑んだものとなっている。
たとえば、
「生態系は、生物個体、個体群、群集と
さまざまな階層からなるが、
個体が個体群となると個体レベルには
存在しない特性が出現する。
これを「創発特性」という。
作物だけでなく、雑草や昆虫・野鳥と
多くの生命からなる生態系で、
個々の作物の総和以上のものとなる。」
ただの足し算ではない力が
発揮されるようになると言うのだ。
そこで
「生物群集同士の複雑な相互関係のなかから
相利共生が生じれば、害虫が発生しても
創発特性で抑制され、肥料も削減できる。」
加えて、雑草も資源となる。
またたとえば、
化学肥料と農薬で逆に病害虫が増える
という謎について。
化学肥料は植物の生長を早くさせるが、
植物体は弱く(不健康に)なる。
農薬もまた、害虫を駆逐するが、
植物体の健康を阻害している。
結果として病気や害虫を増やす
ことになる。
その仕組みが作物体内での養分代謝
の乱れとか、微量元素(ミネラル)との
関係で解き明かされていく。
ひとつの例を挙げれば、
フランスのブドウ農家が、古くから
泥棒対策として散布していた
硫酸銅と石灰の混合液(ボルドー液)が、
ベト病を防いでいることに
学者が気づいたのは1882年。
世界で最初に認められた農薬(防除資材)
と言われるが、その作用メカニズムは
よく分かっていなかった。
長い調査と分析で分かってきたことは、
銅や亜鉛といった物質は、
病原菌を直接的に殺していたわけではなく、
植物体内の窒素(アミノ酸・たんぱく質)
とのバランス回復に貢献し、
結果として病気にかからない
健康体づくりに貢献していた、と
いうことのようなのである。
あるいは、ダニが害虫になったのは、
農薬が使われるようになった戦後のこと
である、という指摘。
吉田さんは、このように
様々な疑問に答えを用意しようとして、
結果的に、地球の歴史における
生命の誕生から解き明かさなければ
ならなくなる。
おかげで専門用語や複雑な機序の解説も
増え、読むほうもしんどくなるが、
絶妙に築かれてきた生態系ネットワークの
仕組みを壊してきたのが近代農業であり、
科学的説明はできなくとも
土と格闘し、対話してきた篤農家の
叡智に根拠があったことをも、
僕らは教えられる。
おそらく今後、有機農業は
自然農法(あるいは「自然農業」)とも
融合してゆき、21世紀の、
地球生態系と生物(ヒトも含む)の健康を
守る農業技術として、新たな言葉で
体系化されていくことであろう。
吉田さんのあとがきにある
「このテーマに時代が追い付いてきた」
に希望を見る。
しかもこれは世界平和にもつながる
永続的技術開発であり、
たしかな「革命」であることを、
僕は確信するものである。
映画上映会&トークが終わったあと、
新橋駅ガード下で何人かと
一緒に飲んだ時の吉田さんは、
少し疲れているようでもあった。
吉田さん、どうかご自愛ください。
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