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私の中にある “ 微生物の銀河 ”

2024/08/06
  • 雑記その他
  • 食・農業・環境
私の中にある “ 微生物の銀河 ”

いや、それにしても暑いっすね。

昨年7月、
国連事務総長アントニオ・グレーテス氏は
「温暖化の時代は終わり、
  今や地球沸騰型の時代に入った」
と語ったが、いや、「灼熱化」の様相だ。

「夏は得意」と威張っていたワタクシも、
もう木陰に隠れて、こんな感じ。

**********

では『土と内蔵』を語る、の続き。
終盤は、ほぼ僕の感想です。

 

著者は、抗生物質投与を当たり前とする
現在の畜産に警鐘を鳴らしている。

日本の有機農業の世界でも、
動物性堆肥の安全性は以前から
議論されていて、
「牛糞はもう使わない」と決めた
有機農家もいたりするが、
「それで終わっちゃいけない」という
疑問が、僕の中で残り続けている。

それで終わっては
「あるべき物質循環」が成り立たない。

健全な育て方をされた家畜の糞であれば、
土に還すのは真っ当な資源循環になる。

(その意味で「動物性肥料は使用しない」
という自然農法の考え方には
ずっと「?」が残っている。)

健康な家畜から健全な堆肥(土づくり)の
元が手に入る。であるがゆえに
有機農業は有機畜産を求める。
求め続けなければならない。

しかしそれ(健全な循環)が実践
できているのは、
今のところ小規模な有畜複合農業
(平飼い養鶏と組み合わせる有機農家とか)
くらいだろうか。
越えるためには「地域」での循環が
求められるし、循環を成立させるためには、
「消費」という受け皿がキモになる。

土台を守り育てるためにも、
私たちは何を食べるか、という問いを
立て続けなければならない。

アン夫人は、ガンをきっかけに
「自然食」にのめり込むのだが、
夫モンゴメリー氏は
「のめり込み過ぎ」を気にしている。
そんな人間的な部分が垣間見れるのも
面白い。

それから、
補足したいと思った点が一つある。

モンゴメリー氏は、化学肥料の投与は
最小限に抑えるべきだとしつつも、
商業的農業には欠かせないとも書いている。
しかしここはサラッと頷かずに、
私たちとしては、日本の事情を考えたい。

日本では、土を養う有機質資源は豊富にある。
しかし使われていない、ということ。
にも拘らず化学肥料は全面的に輸入に頼っている。
ということは、化石燃料の浪費の上に
日本農業が成り立っている、ということ。

もちろん農薬・化学肥料は
製造する際にも化石燃料に頼っていて、
天然ガスの相場に影響されたりする。
依存先も偏っているために、
政治情勢の影響も受けやすい。
ウクライナ情勢で化学肥料が暴騰したのは
つい最近のことである。

さらに昨今は、その資源供給力すらも
危うくなってきていて、中国はすでに
リン鉱石の輸出を抑制してきている。

そういう危うい世界に依存して
食生活を成り立たせながら、
食料を大量に捨てている国。
しかも耕作地を減らしている稀有な国。
山を荒らしながら木材を輸入して、
やれクマに襲われたとか騒いでいる国。
こういうお国事情は、
頭に入れて読む必要があるように思う。

 

この本では随所に、
どっかで引用したいと思わせる言葉が
散りばめられている。
たとえば、
「死から生命が生まれ、それによって
 私たちは生かされている」
という表現。
微生物が有機物という生命体の死骸を分解し、
そこから新たな生命が育っていく。
この循環の世界を壊してはいけないと、
強く思わされる。

他にも抜き出した言葉を挙げると-

「地下の生命が地上の生命を形作る」
「自然界の目に見える地上部分は、地面の
 下にあるものによって浮いていられるのだ」
「近代農業は作物を病気にかかりやすくする道を
 突き進んできた」
「農薬は症状に対処するが、
 原因には対処できない」
「人体は一つの広大な生態系だ。
  ~多彩な生態系を持った一つの惑星なのだ」
「微生物が繁栄するとき、私たちも繫栄する」
「消毒して無菌にした土壌では、
 植物は病気で弱ってしまう」
「何を食べるかを考えるとき、
 自分が本当は何のために食べているのか、
 食べたもので何をするのかを
 意識したほうがいい」
「土壌は国のもっとも重要な資源である」
「未来の世代をはぐくむ自然の秘密
 -有機物と土壌生物が豊富な土-は、
 生物学的循環の中に栄養を維持するのだ」
「根は腸であり、腸は根なのだ」

有機農業は、こういうところから
語り始めなければならないと、
考えさせられた。

化学肥料や農薬の功罪、その歴史、
化石燃料に依存した日本の食基盤の脆さ、
生物多様性や気候変動の問題‥‥
自分の中でこれまで学んで得てきた
様々な断片がつながった思いだった。

有機農業関連の書籍は様々あるけど、
土こそ原点、そこから考えることで、
「有機」の意味と価値が
理解しやすくなると思い、
紹介させていただいた次第です。

フリートークで話したのは、
だいたい以上。

**********

せっかくなので、ついでに
モンゴメリーの三部作にも
触れておきましょうか。

ひとつは、2007に出版された
『土の文明史』。
土の視点から文明史を解き明かしたもので、
「土は我々の存在の根源、地上の生命の本質」
だと、ここですでに
『土と内蔵』の原型が描かれています。

もうひとつは、『土と内蔵』の次に出された
『土・牛・微生物』。出版は2018年。
今度は文明の衰退を食い止める土の話。

耕地を劣化させ続けてきた近代農業から
どう回復させるかという命題に対して、
モンゴメリー氏は、有機農業と不耕起栽培に
希望を託そうとしています。
不耕起についてはまだ検討が必要ですが、
「有機農業が地球を救う」鍵であることに、
氏はさらに確信を強めてきたと言えます。

内容がかぶっている部分も多いので、
私としては、まずは『土と内蔵』を
お勧めします。

 

最後に、最も気に入った一文を紹介して
終わります。

  私たち一人ひとりが微生物の銀河を持っている。

美しい一文ですね。

最近復活したNHKの番組-「プロジェクトX」の
主題歌、中島みゆきが歌う「地上の星」に
こんな一節があります。

“ 風の中のスバル 砂の中の銀河 ~
 みんなどこへ行った 見送られることもなく ~
 地上の星を誰も覚えていない
 人は空ばかり見てる ~ ”

「地上の星」ならぬ「地下の銀河」をこそ、
見つめ直す時だと、思う次第です。

 

2024年8月6日。
出穂を始めた丹那盆地から。

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