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エビちゃん日記
- 震災復興
8月26日(土)、茨城県立近代美術館での
「美術にみる《農》の世界」展を堪能した後、
JR常磐線・特急ひたち号に乗って北に向かった。
福島県に入り、まだ明るい夕刻のうちにいわき市の湯本駅に到着。
いわき湯本温泉の「元禄彩雅館 古滝屋」という旅館を目指す。
元禄8(1695)年創業という老舗の宿である。
ただ当方の目当ては、宿自体ではなく、
この旅館内にある『原子力災害考証館 furusato 』という、
3.11から10年後の2021年3月12日に開設された、
手づくりの資料館だった。
館長はこの宿の当主、里見喜生氏。
ホームページに「考証館」開設の思いが綴られている。
大地、海、文化、暮らし・・・
様々な、形あるもの、ないものが壊され、失われた。
・・・命の営みにとって本当に大事なものは何か。
それを二度と失わないようにするために、
どのような社会にしていけばいいのか。
そうした問いに、向き合える場所を作りたい―
今起きていることに目を背けず、考証し、
未来へつないでいくために―
(HPから抜粋)
「水俣病歴史考証館」から着想を得たとも書かれている。
僕も一度訪ねていったことがある。
「ミナマタ」は何といっても、漁村に育った僕の
人生を変えたと言ってもいい場所だからね。
福島第一原発から南に50㎞という場所で、
老舗の温泉旅館の当主が、地震&津波&原発事故という
「未曽有のトリプル災害」の歴史を
「伝え残す」ために、宿の2室を開放した。
開設にあたって、スタッフとして関わったのが、
「日本有機農業推進協議会」の元事務局をやっていた
鈴木亮さんで、
それも一度訪ねたいと思っていた理由の一つである。
鈴木さんは2017年から富岡町に移り住んでいる。
考証館は宿の9階にあった。
20畳ぶんの2部屋に様々な資料が置かれていた。
常駐するスタッフはおらず、ただ見放題のお部屋である。
僕が見た限り、滞在客はほぼ素通りしていた。
震災後の状況を表現したオブジェの背景に、
必死で行方不明者を探す人たちとともに、
亡くなった少女の写真が飾られていた。
左下隅に一部映っている写真は、七五三の時に
家族と撮ったものである。
探している5人の手前にいるのは女性のようだ。
いろんな想像を掻き立てられる。
そのオブジェの隣には、
楢葉町の「宝鏡寺」元住職、故早川篤雄(とくお)和尚を
追悼するコーナーが設けられていた。
半世紀以上にわたって原発反対運動に身を投じ、
3.11の原発事故によって避難を余儀なくされた後は、
200人以上の避難民とともに東京電力を相手に起こした
賠償請求訴訟の原告団長を務め、昨年3月に勝訴する。
6月には東電社長名による謝罪も出された。
昨年12月29日、誤嚥性肺炎により死去。享年83歳。
亡くなる間際まで、まだ続いている別の裁判資料に
目を通していたという。
昨年3月11日には、宝鏡寺境内に、私費を投じて
原発事故の教訓を伝える「伝承館」を開設。
実はお盆の東北小旅行で立ち寄る予定だった場所だ。
改めて、いつかきっと、訪ねたいと思う。
文献や書籍の資料はさすがに読み切れない。
眺めるまで。
また特別展示として、『未来のえがお』と題した
フォトジャーナリスト・豊田直巳さんの写真が
展示されていた。
除染廃棄物を一時保管するために、
広大な面積の中間貯蔵施設が
福島第一原発の周囲に確保された。
故郷の土地をやむなく買収に応じた人もいれば、
「手放したくない」と、借地契約で貸した地権者もいる。
この土地の未来はどうなるか・・・
僕にはとても明るい未来は想像できないが、
豊田さんは地権者たちの姿を撮り続け、
選んだ18枚を、「未来のえがお」と題して出展した。
「取り戻したいのは、ほんとうの笑顔」
でも・・・僕には、貼られた写真とこのタイトルは
どうしてもマッチさせられなかった。
シュールで、切なさしか感じられない。
豊田さんはどんな思いでシャッターを押したんだろう。
背負ってしまったのは、
むしろ怨念のようなものじゃないのか・・・
そんなふうに問いたくなってくる。
タイトルが悲し過ぎる。
そういう効果を狙ったんだったら何も言わないけど。
中間貯蔵施設地帯の向こうに見える、
1F(福島第一原発)。
まだ1ミリグラムのデブリも取り出せないまま、
永遠の眠りにつくこともできず、
税金をひたすら喰らい続ける巨大な魔物。
30年や40年で廃炉が達成できるはずなどないことは、
ほぼすべての人々が知っている。
メルトダウンを起こさなかった福島第二ですら、
それくらいかかる計算なんだから。
「政治」の言葉なんか、誰も信じなくなってきた。
それでいて反対論はバッシングする。
「裸の王様」の世界みたい。
それが今の、「民主主義」を標榜するこの国の姿だ。
そして24日から始まった「汚染水」(アルプス処理水)放出。
元を断つこともできず、未来への影響は誰にも分らないまま、
強行された。
そんな汚染水問題についての福島県民の思いというか、
「空気」感にも触れられるかと期待していたが、
専従者もいない手づくり資料館の限界か、
なかなか迅速なアップ・デートは叶わないようである。
ま、そこはしょうがないか。
旅館には外人客も含めて沢山のお客さんが入っていたが、
僕が眺めている間、入ってくる客は一人もいなかった。
忘れないようにしたい。
3.11直後の、「あの思い」を-
そして、ささやかながらも、
何かを信じて手づくり資料館を開設された思いを。
信じたいのは、「つながり」なんだと思う。
その「つながり」に、希望を託しているのだ。
5歳で命を失った少女に手を合わせ、
心ばかりのカンパを貯金箱に入れ、後にした。
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