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太陽とともに生きる農民たち

2023/09/24
  • 生産者・産地情報
  • 脱原発・自然エネルギー
太陽とともに生きる農民たち

9月10日(日)。
伊藤大輔・美江夫妻が作ってくれた
“ こだわりのホットドッグ ” で昼食を済ませた我々は、
収穫期を迎えた田園風景を眺めながら、
ジェイラップ本社に戻る。

「今日から稲刈り開始です!」
「〇〇の田んぼから行きます」と、
スタッフの声も弾んでいる。

ここでは、ジェイラップのオペレーターたちが
稲刈り作業を請け負っている。
農家がそれぞれに田植え機やコンバインを所有して、
それぞれに作業を行うのではない。
まさに「一手に引き受け」て、田んぼの状態を見ながら
作業を進めていくのである。
それによって田んぼ一枚一枚ごとでの肥培管理もでき、
コメの品質も向上・安定化させることができる。
そして各農家は、田んぼはジェイラップに任せて、
田植え機も持たず、それぞれ得意の作物管理に集中する。
長年かけて作り上げてきたシステムである。

 

午後1時過ぎ、
大エネ(大地を守る・くらしからエネルギーを考える会)
視察団が到着。
参加者は職員3名に大地を守る会の消費者会員が5名。

挨拶やスケジュールの確認も早々にすませ、
現地視察に出る。

昨年は3ヵ所だった田んぼでのソーラーシェアリングが、
今年は14ヵ所に増えている。

他の平地や屋根等に設置した場所も含めると
合計70数枚(ヵ所)に及ぶという。
伊藤さんも正確な数がすぐに出なくなっているほどだ。
水田での設置は、来年あと数枚建てて
いったん計画は終了、とのこと。

売電収入はすでに年間億単位になるほどだが、
売ってただ儲けるのではなく、
次の投資に回していくというのが伊藤流である。

FIT(固定買取り制度)の買取価格は年々下がっていき、
いずれ終わる。
いっぽうで蓄電池の開発は、間違いなく進んでいく。
負の側面と言われるパネルの最終処分についても、
リサイクル技術は進化していっている。

その間に、「エネルギー自給」に向けて
いろんなアイデアを試していく必要がある。
できてから考えるのではなく、今から準備するのだ。
これは有事の際の危機管理にもつながっている。

参加者の一人が、ソーラーパネルをひと目見て
「(背が)高いですね」と驚いた。

そう。4.5mある。
大型の農機が入れるよう、また
他の作物に転換させても制約を受けないよう、
「その先」を想定しながらの工夫のひとつだと言えるか。

パネルを設置したことで稲の生育が遅れたり、
収量が落ちることはなかったか?

この問いに対する答えは、
「この2年、結果は逆」である。
イネは35℃以上になると生育が止まり、
高温不稔になる可能性が高まる。
暑すぎる時には、むしろ適度な日陰にもなり、
今年の収量は、他の田より多いくらいだと。

「(ソーラーパネルは)収量を落とす」という
思い込みは、「仮説」でしかない。

「やってみないと分からない」
「やってみることで検証もできる(データが取れる)」

これが伊藤さんの持論であり、
結果はまさに「やってみないと分からない」を
実証した形となった。
「経験に勝る知見なし」ということだ。
(ただもう数年データを取り続ける必要はある。)

 

今回参加されたメンバーの中に、
オイシックス・ブランドの商品写真を撮っている
山岡さんという女性がいて、
なんとドローンを持参して、飛ばしてくれた。

この田園地帯に広がりつつあるソーラーシェアリング
の姿を空中から撮影すると、どんな光景になるか。
編集が待たれるところだが、
一枚だけ写真を送ってきてくれた。
こんな感じ。

道路からすぐ見える田んぼにも立ち寄る。
覗けば、パネルの柱の脇には隙間がある。
機械作業ではやり切れない部分であり、
また作業の安全を考慮してのことだが、
そのぶん収量の減少につながることも懸念されたが、
全体として収量増になっているので、
気にするほどのことでもないようである。

 

圃場視察後、ジェイラップ敷地内を案内する伊藤氏。
敷地内にも太陽光パネルが設置されている。

 

精米所、貯蔵タンク、太陽熱乾燥施設、事務所
からスタートして、野菜集荷場、堆肥場、加工施設・・・
と、年々、施設・建屋が増えてきたが、
それでもまだ敷地には余裕がある。

そしていま建設中なのが、廃棄物を焼却するボイラー。
ダイオキシンを排出しないフィルター付きで、
出る排熱をハウス栽培の暖房に回すというプランである。
それによって重油(輸入燃料)の使用を削減させる。

この新たなプラントの設置には経産省も助成し、
かつボイラー・メーカーも建設費負担に協力している。
次に来た時は、この施設が稼働しているのを
見せてもらうことになる。

さらに伊藤さんは、裏の山15ヘクタールを買った。
山を整備しながら、さて何が生まれてくるか・・・
構想も聞かせてもらったが、
それはこの先のお楽しみとして、残しておきたい。

 

事務所に戻って、大エネのインタビューが行われる。

今回の視察目的はもちろんソーラーシェアリング
なのだけれど、伊藤さんの話は
「総合的な自給力の獲得」という方向に広がっていく。

エネルギー問題だけを考えているわけではない。
別な場所では、新しい堆肥場の建設も進めている。
全面的に輸入に頼っている化学肥料が高騰し、
逼迫していく中で、肥料の自給力を高めていっている
ことも、僕としては特記しておきたい。
その資源はすべて地元から出る。
つまり「循環」である。

あらゆる資源が高騰し、あるいは枯渇に向かい、
気候変動とともに異常気象が当たり前となり、
世界じゅうで災害が甚大化していく昨今、
伊藤さんたちが歩んでいる道は、
世界を救う技術をつかもうと模索する道でもある。
有機農業は、その「土台技術のひとつ」である。

太陽光パネル自体は、ひとつの発電設備に過ぎない。
しかしすべての生命の源である太陽エネルギーを、
上手に受け取り、暮らしや経済活動に活かしていく、
そのためのひとつのピースだと考えたなら、
それは大きな循環を築き直すための一歩でもあると、
考えたい。
いみじくも、インタビューに答えて、
伊藤さんはこう言った。

農業と自然再生エネルギーは、
いろんな形でジョイントできるのです。

 

その昔、といっても昭和の時代、
『太陽を盗んだ男』という映画があったのを思い出した。

沢田研二演じる冴えない高校の理科教師が、
東海原発に忍び込んでプルトニウムを盗み出し、
原爆を製造することに成功して、政府を脅す。
追いかけるシブい刑事(デカ)は菅原文太が演じた。

一介の高校教師にプルトニウムを盗まれるアホな発電所。
自宅でできちゃう原子力爆弾(理屈的には可能らしいが)。
何をしたいのか分からず、プロ野球のナイター中継を
最後まで放送しろと政府を脅す男。
髪の毛がどれだけ抜けても長髪たっぷりのジュリー。
冴えない教師の天才的なカーチェイス・テクに、
撃たれても撃たれても立ち上がるデカ・・・

真面目に観れば、とてもバカバカしい映画だったが、
すべてが社会風刺的でもあった。

 

かつて原子力エネルギーは、
人間が手に入れた「太陽」と言われた。

いま目の前で農民たちが手にしようとしているのは、
太陽の恵みを生かす、持続可能で、豊かな力だ。

去年は「エネルギーならここにある」と書いたが、
今年のタイトルは
「太陽とともに生きる農民たち」としたい。

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