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エビちゃん日記
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郷酒を楽しんだ翌日(8月7日)。
大地を守る会の幕張本社に出向き、午前は藤田社長との打ち合わせ。
そして午後は、幕張テクノガーデン内の会議室にて、
『脱ネオニコチノイド農薬についての生産者会議』
が開かれたので、参加した。
参加者は40人ほど。
ネオニコ農薬に関する活動については、
大地を守る会時代のブログでも何度かお伝えしてきたが、
生産者を集めての会議となると5年ぶりである。
前回のネオニコ関連での記事は2014年6月15日付を、
5年前の生産者会議のレポートはほぼ半月にわたって連載したので、
2010年9月のアーカイブからご参照頂きたい。
今回の会議でお呼びした講師は、
宮崎大学農学部准教授・大野和郎先生。
このテーマでお会いするのは何度目だろうか。
会議のテーマは「脱ネオニコチノイド農薬」だったが、
大野さんが立てたタイトルは
「天敵を利用した害虫管理-生態系サービスの活用」
というものだった。
要するに、大野さんが専門とする
天敵を活用したIPM(総合的病害虫管理)の技術理論に加え、
農業環境の改善(=生態系サービスの活用)を進めることで、
全体的な農薬削減のプログラムを前進させる、という意図だと理解した。
生態系サービスの活用とは、
生態系バランスを整えることで病害虫を自然制御する力を豊かにさせる、
と言い換えればいいだろうか。
ネオニコ系農薬だけ騒いでも、それに代わる農薬が開発されるだけである。
実際のところ、害虫の中にはネオニコに対する耐性も生まれてきていて、
ネオニコ農薬は、反対運動によるより前に、
効かなくなって淘汰されていく可能性のほうが高い、
と大野さんは睨んでいる。
そして次の新薬もまた、ネオニコと構造式が似ているのである。
農薬とのいたちごっこではなく、
農業の技術思想そのものを変えていかなければならない、
というのが大野さんの問題意識だ。
これはこれまで書いてきた僕の思いと共通する。
まさに「王道を進もう」というプレゼンであった。
農薬の影響はミツバチだけではない。
天敵も蜜を食べている以上、影響を受けている。
いい虫が農地で働ける環境づくりこそ、求められている道だ。
農業とは、食料の供給だけでなく、
環境保全(多様性の保全)に対する責任を伴った産業である。
その役割が国民に認められれば(認められる産業になれば)、
TPPがどうなろうが、日本の農業を消費者が見捨てることはないだろう。
ミツバチの減少はネオニコ系農薬が登場してからの話ではない。
実は、第2次世界大戦後からずっと減り続けている。
有機塩素系農薬から始まり、有機リン系、合成ピレスロイド・・・
昆虫たちはずっと痛めつけられてきたのだ。
その要因は複合的なものである。
化学農薬、病原菌、寄生者、単植栽培(モノカルチャー)と花のない景観。
特にモノカルチャー栽培がもたらした影響が大きい、
と大野さんは力説する。
カリフォルニアに広がる広大なアーモンド畑などを映しながら。
ミツバチによる受粉を必要とする農地は、
世界中でかつての300%(3倍)にまで増えている。
必然的に授粉用ミツバチは酷使される。
モノカルチャーと農薬の相乗が、ミツバチの減少や
害虫問題を深刻化させてきた背景である。
緑肥として使われていた被覆植物や雑草は除草剤で排除され、
ひ弱になった。
自然植生が排除され、生物多様性が失われるとともに
自然制御力(天敵等)が低下し、特定の害虫が誘引される。
生産性を追求した肥料の過剰施肥は作物の栄養的不均衡を招き、
害虫に対する脆弱性が増大する。
そして農薬の集中的使用によって天敵(益虫)までもが排除され、
二次害虫の発生や抵抗性の獲得による誘導多発性(リサージェンス)
によって害虫問題はかえって深刻化する。
生産性を追い求めた近代農業は、
すでにその限界を露わにしてきているようだ。
農薬の適正な選択と天敵保護の組み合わせによって
病害虫の発生を抑制するかつてのIPM理論は、
土台に植生管理(=天敵の強化)を置いた大野さんたちの研究と実践によって、
次のレベルに到達しようとしている。
天敵を温存あるいは増やしてくれる植物の活用や土着天敵の利用など、
幾つかの事例が報告された。
天敵と害虫発生のズレの解消など課題も残っているが、
土着天敵を増やす植物の研究も進んでいるようで、
様々な花と野菜の組み合わせの成功事例が増えつつある。
そして大野さんの視線の先には、まだ確かめられてない
“ 沈黙の天敵 ” の存在がある。
大野さんたちは粘り強く「沈黙の天敵」を見つけ出していくのだろう。
まるで壮大な生命のつながりを一つ一つ解き明かしていく作業のようだ。
それは間違いなく、有機農業が目指す
次の農業体系を補完するものになるはずだ。
講演後は、全国各地(青森から沖縄まで)から参加された生産者による
現状報告や質疑が行われた。
流通・販売者がネオニコ農薬を否定する(排除する)のは、
理屈的には簡単なことだ。
使用する生産者や使用する作物と契約しなければよい。
そういう基準を設定すれば済むことだ。
しかし目標が、課題を乗り越えて次の農業体系を築くことだとしたら、
僕らはその意志を持つ人たちと一緒に歩かねばならない。
「脱ネオニコ」にとどまらない技術の進化を、
彼らとともに築いていきたいと思うのである。
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